【ネタバレあり】【映画】「ヒノマルソウル」 感想 

長野オリンピック・ラージヒル団体で日本初の金メダルを狙うスキージャンプチーム。そこに、エース原田のジャンプを複雑な想いで見つめる男―元日本代表・西方仁也(田中圭)がいた。前回大会・リレハンメルオリンピックで、西方は原田とともに代表選手として出場するも、結果は銀メダル。4年後の雪辱を誓い練習に打ち込んだが、代表を落選。失意の中、テストジャンパーとしてオリンピックへの参加を依頼され、屈辱を感じながらも裏方に甘んじる。そして迎えた本番。団体戦の1本目のジャンプで、日本はまさかの4位に後退。しかも猛吹雪により競技が中断。メダルの可能性が消えかけた時、審判員たちから提示されたのは、「テストジャンパー25人全員が無事に飛べたら競技を再開する」という前代未聞の条件だった…。

命の危険も伴う悪天候の中、金メダルへのかすかな希望は西方たち25人のテストジャンパーに託された―。

(公式サイトより)

「ヒノマルソウル」は実話をもとにした映画です。

長野オリンピックジャンプ団体は、1998年を生きた日本人ならおそらくみんなの脳裏に感動とともに残っているのではないでしょうか。

ただ、ジャンプ団体のときのテストジャンパーについては、私は長野オリンピックオタクなので知っていましたが、一般的には知られていない話かもしれないですね。

万人にオススメできる感動作

映画を観て、まず最初の感想は、「感動した!」

たくさん泣きました

 

ジャンプ団体そのものが、4年をかけたリレハンメル銀からのリベンジ、それをなぞるような当日の展開ともに感動的ですし、それを裏で支えていたテストジャンパーのエピソードも感動的です。

それを、田中圭や土屋太鳳といった人気俳優を配してそつなく描いた映画だと思います。

子どもから大人まで、誰にでもおすすめできる映画です。

オリンピックをさまざまな角度から照らした映画

映画を観て、改めて長野オリンピックのテストジャンパーとはいいところに目をつけたなと思いました。

 

主人公 西方仁也

オリンピックに出たけれど、出ればOKというわけではない

前回のリレハンメルオリンピックに出場したオリンピック選手。そしてメダリストです。銀メダルを手にしましたが、もうそこに見えていた金メダルを逃しての銀であるため、メダルを取ったことに満足していません。

長野オリンピックに出ることを目ざして努力を重ねますが、彗星のように現れた新人(船木一喜)に負けて落選してしまいます。

失敗ジャンプの張本人でありながら長野オリンピックで脚光を浴びている原田に対する葛藤も丁寧に描かれます。

 

高橋竜二

パラリンピック的な視点

聴覚障がいを持ちながらも純ジャンプの第一線で戦っていたスキージャンパーです。

いわゆる障がいがあっても、スポーツにかける思いは同じです。

ちなみに、パラリンピックにスキージャンプはありません。

 

小林賀子

オリンピックへの道そのものがない者のオリンピックへの憧れ

女子のスキージャンパー。

当時、女子のジャンプはオリンピック競技ではなく、日本国内でも一般には知られていませんでした。

モデルは葛西賀子選手。

男子のレジェンド葛西選手の家族や親戚ではないんですよ、と当時紹介されていましたっけ

今はオリンピックの正式種目になり、高梨沙羅選手の活躍ですっかりメジャーになった女子スキージャンプですが、「オリンピックには出られない。でも、オリンピックに出たい」と切望した、こうした先輩たちの努力が沙羅ちゃんたちにつながっていると思うと胸が熱くなります。

 

南川崇

オリンピックを目ざしている者

スポーツをしている選手ならば、誰もが一度はオリンピックを夢見たことがあるでしょう。

特定のモデルはいないようですが、オリンピックを夢見ながらも、ケガに苦しんだり、可能性の低さに気持ちが折れたりするたくさんの選手を象徴するキャラクターです。

 

西方の葛藤を軸として、彼らの思いや行動が丁寧に描かれているので、オリンピックが表舞台に立つ選手だけで成り立っているものではないことを改めて感じることができます。

オリンピックという大きな舞台でなくても、小学生のスポ少や中高の部活でも同じような葛藤はあることなので、自分と重ねて感情移入しやすいキャラクターがいるのではないでしょうか。

その彼らが、他者のために自分のプライドをかけて悪天候の中を飛ぶ。

それが実は日本にオリンピック金メダルを獲らせていた。

主人公の葛藤からの成長という視点からも、群像劇という面からもよくできていて感動的だと思います。

オリンピックメンバーに選ばれながらも出番のなかった選手たちはどんな思いだったんだろう、とちょっと考えちゃいました

ここからは個人的な戯言です

……以上、としてもいいんですが、長野オリンピックオタクとしては、どうもモヤモヤしたものが残ったんですよね。

ここからは、そのモヤモヤについて残しておきたいと思います。

興味のある方だけお読みください。

「実話」としての配役が中途半端

ジャンプの選手については、原田、船木から葛西まで、選手本人に似せたキャスティングがなされています。原田雅彦役の濱津隆之(「カメラを止めるな!」)は熱演でした。

一方、テストジャンパーのメンバーは、田中圭をはじめとして、モデルに似せることなく普通に俳優が起用されて演技をしています。

これが映画を二つに分断してしまったように思います。

選手たちが金メダルをとった場面は、テレビで映されたシーンをなぞったかたちで撮られているので、どうもテレビのバラエティ番組の再現シーンのように見えてしまうのです。

 

そして、西方仁也を演じた田中圭は、西方に寄せる感じはなく、あくまでも「田中圭」でした。

田中圭は、いい俳優だと思います。「おっさんずラブ」なんて、田中圭のキャラクターでなければ成り立たないドラマでした。

ただ、彼のキャラクターはジャンプ選手には合わない。

長年スキージャンプを見てきて、この人たちはきっと街では上手に生きられない人なんだなと勝手に感じています。

だからこそ、クソ寒い中、人里離れた山の中に出かけていって、クソ高いところからトップスピードで落っこちていくなんていうことに人生をかけられるのだと。

ほめてます

あの笑顔の原田雅彦にも感じられるこのジャンプ選手の凄みが、田中圭からは感じられなかった。

実話をもとにした映画ですが、モデルに近づいていくのではなく、あくまでも田中圭のキャラクターで押し通そうとした印象です。

 

だから、テレビバラエティ内のの再現ドラマと、田中圭主演のテレビドラマをくっつけたような、中途半端な印象がぬぐえないんですよね。

 

「ヒノマルソウルです!」なんていう取ってつけたようなセリフも不要。

 

役者の粒を揃えて、テレビのオリンピック映像に縛られず、あくまでも1本の映画としてのダイナミズムを重視していたらどんな作品になったのだろうとちょっと考えてしまいました。

 

憑依系の俳優さんが主演で、イーストウッドが撮ったらどんな映画になったかな

想定が飛躍しすぎ

そして、これだけは言いたい 観客ナメんな!

競技が中断している間に「中断が長いからもう帰っちゃおうか」という観客の会話があったのですが、あれはありません!

白馬ジャンプ場までオリンピックを観にいくというのは大変なことです。

広島から白馬まで、個人ノーマルヒルですが、生観戦に行った私が言うのだから間違いありません!

競技場に集まっていたのは、時間もお金も手間もかけて日本全国から来ていた人たちです。

オリンピックに行こうと決心し、何ヵ月も前にチケットを取り、限られたホテルや交通機関をなんとか確保してあの場にいたのです。

それなのに「退屈だから帰っちゃおうか」などということになるはずがありません。

広島市内からマツダスタジアムに行って、雨による中断が長くなったから「もう帰ろうか」となるのとはワケがちがう!

優勝決定戦なら、マツダスタジアムだって帰らないよ

あの場面は土屋太鳳演じる妻の本気の切羽詰まった思いを引き立たせるために、そんなことは知らない一般の観客ののんびりした思いとの落差を描こうとしたのでしょうが、それにしてもあれはひどい。

競技場にいた観客たちは、なんとかして競技が再開して、日本が金メダルをとってほしいと、その瞬間をこの目で見たいと、心の底から願っていたはずです。

自国開催で、日本の金メダルが生で見られるなんて、一生この先ないかもしれない。

オリンピックに行くということは、観客にとっても人生の一大事なのです。

 

観客もオリンピックの参加者です。

いろいろな思いを持って試合会場に来ています。

そこの視点も大切にしてもらえれば、映画にまたひとつ重層的な視点が加わったのにな、と残念に思います。

 

実際にあの試合を現地で観戦されていた方が書かれた記事です。

20年以上前のことなのに、当日のことをこれだけリアルに覚えていらっしゃることに胸を打たれました。

感動映画『ヒノマルソウル』 映画には描かれなかった「長野五輪ジャンプ団体」の現場の真実を語る(堀井憲一郎) - エキスパート - Yahoo!ニュース
1998年2月17日火曜日 白馬ジャンプ場での真実コロナの影響で遅れて公開された映画『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』は長野オリンピックの団体ジャンプ優勝の裏側を描いた作品である。ジャンプ団体が金

コロナに翻弄された映画

「ヒノマルソウル」は、東京オリンピックに関連して制作されました。

しかし、オリンピックの延期に従ってこの映画の公開も延期、1年たってようやく上映が決定すると首都圏の緊急事態宣言で再延期、とコロナ禍に振り回されました。

オリンピック開催への逆風のあおりをまともに受けました。

田中圭さんや土屋太鳳さんたちが映画の宣伝のためにテレビに出て宣伝したりしていましたが、再延期されたためそこからも間が開くことになり、ほとんど注目されることのないまま公開となりました。

地元開催とはいえ、夏のオリンピック前に冬季オリンピックというのも肌感覚としてマッチしているとは言いがたいんですよね。

いろいろと不運な映画だったと思います。

 

オタクの思い入れでいろいろと書きましたが、先入観なしで観て感動できる映画であるのは間違いありません。

素晴らしかった長野オリンピックジャンプ団体を追体験できる映画、機会があればぜひご覧くださいね。

 

 

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