あらすじ
独り暮らしの姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子はなんとか自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりである―。誰もが直面する問題をユーモラスに描いた長編小説。
(「BOOK」データベースより)
遺品整理・実家片づけのシミュレーション小説
キャッチーなタイトルから「嫁vs姑」モノかなとちょっと身構えてしまいましたが、中身は遺品整理・実家片づけのシミュレーション小説です。
「嫁vs姑」「娘vs母親」「妻vs夫」という「あるある」な対立に、生活保護、放置子、ご近所のつながりの希薄化といった現代ならではの問題も登場し、そこにミステリーのテイストも加わりながらストーリーは進んでいきます。
これがミステリーの切れ味が深くなれば宮部みゆき→直木賞、主人公の内面の葛藤をつきつめれば芥川賞、となるのでしょうが、そこまで重くしんどくなることはなく、さくさくと読めて、読後感はさわやかです。
私自身、3年前に、実母が認知症で施設に入ることになったのに伴って、実家の片づけと売却を経験しました。
ちょうど夏だったので、冷蔵庫に入りきらない食品が腐っていたり、どの部屋にもモノが詰め込まれていたりして、それはそれは大変でした……
そのときの経験と照らし合わせても、「これはちょっと違うんだけど」ということはなく、「あるある」とうなずくことの連続でした。
・なぜモノが捨てられないのか・なぜモノがこんなに増えてしまったのか
・「こんなところからまだこんなモノが出てくる」という恐怖
・エレベーターのあるなしで片づけやすさが左右されること
・賃貸ならば家賃との競争であること
・早朝のゴミ収集に縛られるゴミ捨ての不自由さ
・大型ゴミと自力で処分できるゴミの切り分け
・思いがけないモノの捨てにくさ(ベランダの鉢にある土・石など)
・役所との攻防・公的な制度をうまく使うには
・業者に頼むといくらかかるのか
これはその中の一部ですが、遺品整理の作業的なことがていねいに描かれているので、片づけハウツーものとしても十分参考になります。
また、東京に住む主人公・望登子自身の片づけのほかに、望登子の友達や、北陸にある望登子の実家の例として、田舎の家の片づけの大変さ、売りに出しても買い手がつかないことなども描かれています。
この小説を書くにあたって、遺品整理・実家片づけについての問題点を幅広くリストアップし、それを余すことなく工夫して組み込んだんだろうなと思って感心しました。
モノの整理でいちばん重要なのは感情の整理
現在は遺品整理や実家の片づけについてのハウツー本もたくさん出版されていますが、ハウツー本とこの小説のいちばんの違いは、遺品整理をする中で主人公の気持ちが変わっていく様子がていねいに描かれていることです。
結局、モノを捨てるのに何が障害になるかというと、モノそのものの価値や扱いやすさ、捨てやすさではなく、そのモノにまつわる思い出、愛着や罪悪感といった感情、あるいは親との関係なんですよね。
また、同じ片づける側にいるはずの夫やきょうだいとの間でも、感覚の違いやいさかいが生まれることがあるかもしれません。
その意味では、この小説を読んで、主人公の望登子の揺れ動く感情に自分を重ねたり、「それはちょっと」なんて思いながら、自分自身のモノや親、家族に対する感情をシミュレーションして整理しておくのがおススメです。
そんなふうに整理していたとしても、実際に顔を合わせると、いい意味でも悪い意味でも感情が出てきてしまうのが親子であり、遺品整理でしょう。
それでも、いきなり生々しい現場に丸腰で乗り込むよりも、小説の中でシミュレーションしておくことをとりあえずおススメします。
遺品整理は再会の場でもある
また、センセーショナルなタイトルとはうらはらに、この小説では、遺品整理に伴う肯定的な面もじんわり伝わるように描かれています。
小説としては展開にご都合主義的なところがあったり、ミステリーテイストがそんなに効いていなかったりするのですが、この小説のキモとなる部分を損なうようなものではないと感じました。
今ならもう少し上手に実家の片づけができるのになぁ(でも、夫実家の片づけには口を出さないつもりです)
実家を持つ人なら一度は読んでおいて損はない小説だと思います。