結果論で言うと、男子シングルのポイントは、ネイサン・チェンがショートで大失敗をして羽生結弦と30点もの差がついたことだった。
もしネイサンがショートで普通に演技をして、ゆづと僅差につけていれば、ゆづはフリーに4回転ループを入れざるを得なくなり、どこかでミスが出ただろう。
ネイサンがネイサン比で普通にクワドを5本跳んで、演技をまとめれば、ネイサンが金メダルだったのではないだろうか。
ネイサンが敵ではなくなると、ハビエル・フェルナンデスは演技構成点は同等でも4回転が3本なのでジャンプで上回ることができ、宇野昌磨はジャンプの基礎点では負けても出来栄え点と演技構成点で上回ることができるので、ゆづは4ループなしでも4トウループと4サルコウを2本ずつでまとめれば金メダルが獲れる。
ゆづは4トゥと4サルコウだけで330.43点という当時の世界歴代最高を出したことがあるのだから。
ゆづに関しては、オリンピック前に怪我からの回復に関する情報がまったく入ってこなかったので、そもそもオリンピックのリンクで滑れるのかさえわからなかった。
ドキドキしながら見つめたショートプログラム、ショパン「バラード1番」。しかし彼はぶっつけ本番であることを感じさせないくらい余裕をもってジャンプを決めていく。
そしてフリー「SEIMEI」。後半の4トウループが同じジャンプの繰り返しとなり基礎点が7割になるミスと、最後の3ルッツの着氷が乱れたけれど、根性でこらえて転倒を避け、フリーは2位。
正直なところ、ショート、フリーとも以前使用した曲というのはちょっと残念だと思っていた。確かによいプログラムだったけれど、イメージが固定されちゃってワクワクがないな〜と。
でも、怪我をしたのにオリンピックに間に合ったのは一度滑ったことのあるプログラムだったからだろう。ファンもジャッジもそのクオリティの高さを知っていた。そういう点でもゆづには金メダルへの道があったのかもしれない。
ハビエルは、ショートがチャップリン、フリーが「ラ・マンチャの男」という、“ザ・フェルナンデス”とでも言うべき鉄板の組み合わせ。
グランプリシリーズでは不調でファイナル進出もできなかったけれど、しっかり調子を上げてきて、オリンピックの舞台では、どちらもハビエルらしい素敵な演技だった!
これが最後の演技になるのだろうか……
ソチ後の男子フィギュアを引っ張ってきたハビエルだから、銅とはいえメダルを獲れてよかった。できれば銀をあげたかったな……
ショーマも、ショートのヴィヴァルディ「冬」とフリー「トゥーランドット」で4フリップを決めて銀メダル。
ショーマは、ジャンプ構成を早いうちに固めて安定させ、プログラム構成(特につなぎの部分)をもっと磨けばもっと上に行けたのでは?
でも、銀メダルなのだからいいのかな。
ボーヤン・ジンは4位。シーズン後半男にふさわしく、怪我から復活して、4ルッツを入れてショートもフリーもよかったけれど、このメンバーの中でメダリストになるにはスケーティングが拙い。これだけジャンプが高難度になっても、やはり芸術面が磨かれていなければメダルには届かないということなのだ。
そして、平昌のもう一人の主役とも言えるネイサン・チェン。団体戦から不調だった彼は、ショートでジャンプをまさかの全失敗をして17位。ソチのときの真央ちゃんと重なりまくる。
そしてフリー。4ルッツ、 4フリップ×2本、4サルコウ、4トゥ×2本で計6本のクワドを成功させる。苦手な3アクセルも降りた。
もちろんパーソナルベストの215.08点で、フリーだけならゆづを9点近く上回って1位! 総合でも5位までごぼう抜き。
ネイサンのショート「ネメシス」と、フリー「小さな村の小さなダンサー」は、今シーズンの男子のプログラムの中で一番好きだ。ジュニア上がりっぽかった昨シーズンからぐっと洗練されて格好よかった。ただ、お衣裳が試合が進むにつれてどんどん……な感じになって、勝負のオリンピックで………………になったのはなぜ? まったく解せない。
パトリック・チャンもこのオリンピックが最後。
団体、ショートと不本意な演技だっただろうけど、最後のフリーでクワドが入って、苦手な3アクセルも降りた!
ジャンプがどんどん高難度化していく時代の中で、現役を続けてくれて、素敵なスケーティングを見せてくれたことに感謝だ。
アダム・リッポン:クワドなしでも自分の個性を存分に発揮してくれた。
ミハル・ブレジナ:クワドの成功がうれしかった。
ミーシャ・ジー:昔はエレメンツさっさと片づけて後半自由に踊れればOK! な感じだったのが、今ではクラシックを正統的に滑るすっかり“安定感”の人に。振付師としての未来は明るい。
ドミトリー・アリエフ ヴィンセント・ジョウ:アリエフは4ルッツ跳んでノーミスのショートが4位、総合7位。ヴィンセントはフリーで4ルッツを2本入れる構成でネイサンに次ぐ総合6位。
どちらも将来が楽しみなシニア1年目。
アメリカでもロシアでも代表選考にはあれこれあったけど、とりあえず若手を選んだ意味はあったと言えるかな。
最高難度のものに挑戦して完璧に勝つのが羽生結弦の流儀だったはずだけれど、それを曲げて守りに入ってでも欲しかったオリンピックの金メダル。
それをやりきった彼の強さ、そのメンタリティーは本当にすごい。
オリンピック2連覇を遂げたフィギュアの王子が日本人、男子フィギュアの金銀が日本人ということがいまだにピンとこない。
中学生の私に言っても絶対信じないと思うな。