今年のグランプリシリーズ、男子はまさしく新時代に入ったことを決定づけるようなクワドラッシュ。これまでのトゥループとサルコウに加え、フリップ、ループ、ルッツと全種類の4回転が当たり前のように複数回成功するすごい時代となった。
プルシェンコが唱え続けていた、スポーツとしてのフィギュアスケートの進化。それがまさに現実のものとなり、本当に素晴らしいことだと思う。
ただ、その一方で、クワドに挑戦しなければ戦えない→ギリギリの挑戦でクワドを入れる→失敗してプログラム全体の完成度が下がる、というパターンが増えていることが個人的には残念だ。
たとえば、先シーズンのミハル・ブレジナのショートプログラム「The Way You Look Tonight」、ジェフリー・バトル振付の小粋なとても素敵なプログラムなのに、クワドがことごとく成功しなかったおかげで、完成したプログラムを見ることができなかった。
だったらジャンプの難度を下げたショーナンバーでいいのでは、となるが、それだと試合だからこそ顕現する技術と芸術性が相まった美しさは得られない。
難しいものだ。
このフランス大会では、そのハードルを超えた素晴らしい演技を2つ、見ることができた。
まずは、アダム・リッポン。
彼には創り上げたい自分の世界が明確にあるのだと思う。
ゲイであることをカミングアウトしたこともそれを後押ししているのかもしれない。
これまで4回転が得意でなかったので、あえて4回転ルッツを跳んで部分点を取れればという感じでいたのが、初めて4回転トゥループをきちんと跳んで普通に認定。総合でパーソナルベスト更新!
もう一人はデニス・テン。
デニスは4回転もきれいに跳んでオリンピックと世界選手権の銅メダルも獲っているので、決してジャンプが不得意なわけではないのだけれど、今の複数の種類、複数の回数が当たり前のメンバーの中に入るとちょっと見劣りがする。
また、昨シーズンからケガのためなかなか本調子の演技ができていなかった。
今シーズンも、初戦のスケートアメリカをケガのため欠場している。
そのデニスがいい演技を見せてくれた。
デニスが滑るときだけ氷の摩擦係数が違うんじゃないだろうか、と思わせるくらいのスムーズなスケーティング。efortlessとは、まさにこういうことを言うんだろうな。
デニスは今年からモロゾフコーチについているようだ。
今までスケートが上手な素朴な少年風だったデニスがぐっと垢抜けていて驚いた。
最近、影が薄かったモロゾフだけど、選手のよい部分を引き出して徹底的に磨く手腕は健在のようだ。
これからのデニスが楽しみ。
優勝は、パーフェクトではなかったけれど貫禄のハビエル・フェルナンデス。
ネイサン・チェンは、4ルッツ−3トゥ、4フリップを降りた!!!
そういう選手のことをすごいと思う一方で、クワドは1本でも、トップに立つのは難しくても、素敵なプログラムを見せてくれた2人の選手が2位と3位になったのがうれしい。